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「岡、倉さん?」

 高村くんが、戸惑った感じの声で呼んだ。
 いつも、どうしていいのかわからない。 解決法が見つからない……。

 ガブッ。
 私はいつも……。

「岡倉さん!」

 なす術を知らない……。

「っふぅ……」

 涙の向こうににじんで見えた高村くんは、一瞬切なそうな顔をして、私の手からオレンジをとりあげた。
 そしてスクリーンに映し出されたのは、ふたつの重なる影でした。

 『トパアズ色の香気が立つ』

「……ひどい顔してる。見ないで……」

「……見ないよ」

 パチン。 とスクリーンの明かりが消えた。
 ふるえる指先も、赤い頬も。ここでは何も見えない。
 あるのは、暗闇の密閉された空気と、むせかえるくらいのオレンジのニオイ……。
 唇ダケガ イツマデモ アタタカク ……。

                             (終)

           ◎高村光太郎 『智恵子抄~レモン哀歌~』 抜粋