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「どういうことだ叔父貴! オレの承諾も得ないで婚約発表だなんて!」
九十九オーナールーム。
日も真上へと昇ろうとしている暑い日中。 光記の叫び声に似た怒声が部屋中に響き渡る。
「影良が帰ってきたんだからそれでいいじゃないか! もう二度と裏帯神のところへはやらない! 帯神の始末はオレがするっ。子供なんか必要ない!」
バンッ! と、机に拳を叩きつけた光記は、目の前のソファにゆったりと腰掛けている陽光を睨みつけ、影良がこの場にいないことに誰にでもなく感謝する。
声を荒げた光記とは裏腹に、陽光は隣に座っている亜伊に向けてため息をついてみせる。
“「あのワガママをどうにかしてくれないか」”と……。
「ねぇ、光記。 私、貴方の恋人にして欲しいって言ってる訳でも、妻にして欲しいとも言ってないの。ただ、貴方の子供が欲しい。それだけよ」
「そっ……そういう問題じゃないだろうっ。 オレは影良が好きであいつと一緒にいるんだ。 貴女のことは、もうそういう風には見ていないっ」
「クスクス。 みせてあげるわよ。 ……6年間、少女みたいに貴方のこと好きでいたのよ。純情でしょう? 笑っていいわ。 そう! 昨日思ったんだけど、あの子……昔の私にそっくりね」
ギクリ。 と、光記の体が一瞬強張ったのを、亜伊が見逃すはずはなく、にやっ。 と、艶っぽく笑って席を立ち、光記のそばに近寄る。
すっ。 と、肩に手を乗せてきた亜伊を光記はバッ。 と、険しい顔で振り返り、重い口を開いた。
「……っ何が、言いたいんだっ」 ドクンドクンドクンドクン……。
「貴方、あの子に昔の私を重ねてない?」
ドクン! と、うずいた心に光記は息を詰まらせ、押し黙ってしまった。
と、そこへコンコン。 と、いう甲高いノックの音が室内に響いた。
「……どうぞ」
「光記ぃ、私今日ライブ……っと、ごめんなさい。 あの、また後で……」
ヤバッ。 と、顔を引きつらせて、今しがた部屋へと入ってきた影良は、部屋の空気が重々しく感じて退室しようと身を翻す。 が……。