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「————っ開けるな裕也! 帯神を……魁を呼んでくれ!」

 自分だけではどうしたらいいのか分からず、光記はドア越しで裕也に緊張したままそう頼んだ。
 なんとか、なんとかしないと……影良が……っ!
 ゆらり。 と、風の向きが変わったその瞬間、はっ。 と、して光記は今しがたまで影良が座っていた籐細工の椅子を見るが、そこには影良は居ず、瞬間、光記は息を呑んだ。

「“ここはどこであろう。 そなたは、誰だ?”」

 一瞬で光記の目の前に移動してきたのは、まぎれもなく椅子に座っていた影良だった。 が、様子がおかしい。
 翠色の瞳……。 翠色の、刻印……。 能力発揮時には変わって、浮かび上がって当然なのだが、何かが、違う。

「……えい、ら」

「“? ここは、えいらと申す場所か? して? そなたの名を問うておる。答えよ”」

 影良ではない。
 徐々に止んでくる風に、光記は鼓動を速め、前世むかしの記憶を甦らせる。
 目の前で凛として背筋を正し、自分だけを射るような眼差しで見つめる瞳に、光記は1人だけ、心当たりがあった。
 紛れもない。 月界統者、龍神龍司・羅豪女王。

「……ぇせ」

「“なに?”」

「——っ影良を還せ!」

 ドクドクと、嫌な記憶と今、目の前で起きている現実が、光記には悪夢しか想像させなかった。
 その想像通りか、光記の叫びに“影良”は目を見開き、シュン! と、右手に龍神のつるぎを創り出す。

「“……わたくしは名を問うておるだけ。 何ゆえ、そのような訳の分からぬことを言うか”」

 剣の切っ先をすらっ。 と、喉もとに突きつけられ、光記はごくりとつばを飲み込んだ。
 と、その時だった。 シュンッ。 と、いう音と共に“影良”の背後に魁が現れたのは。

「悪いね、影良」