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 影良はぐっ! と、息を止め、さっきまで棒のように硬くなって動かないでいた脚を、ゆっくりと今来た通りに返した。

「……っねぇ、お願い! 愛して欲しいなんて贅沢は言わないわ! 貴方はあの子のそばに居てもいい、けど、だけどもう1人の貴方を私に産ませてよ!!」

 始めから、“私”を必要としてくれていたワケじゃ、なかったんだ。 ただ真実ほんとうだけを知りたくて、今の私と同じ、“いま、生きている自分”を確認しておきたくて……っ。
 『好きだ』 って……、“理由”をつけて……――――っ!
 ぱたぱたっ。 と、廊下に敷かれたクリームベージュの絨毯に薄黒い涙の跡を残して、影良は自分の部屋に再び駆け込んだ。

「――……っふっ!」

 ―――― 本気になったのは、私だけだったんだ ――――

「クッ……クックックック……。 アッハハハハハハ!」 ドサンッ!

 影良はドアを閉めてうなだれたまま、肩を震わせた。
 そして涙も拭かないまま、笑いながらさっき飛び起きたベッドへと飛び込むように身を投げた。

「……っ1人で浮かれて、1人で悩んでっ!」

 『好きだ』。 そう言われたのは、私じゃない。 “影良”じゃない!!

「ですから、言ったでしょう? 同情だけの恋なら、誰にでもできると……」

 ベッドの、足元にある籐細工の椅子から、静かに聞こえた綺麗なイントネーションに、影良はもう驚きはしなかった。