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ちぃちゃんこと加山 千歳は、つい一年前まであたしの婚約者だった。
「どうしたの?」
「いや、幸せそうな顔している元フィアンセが居たから冷やかしてやろうと思ったんだけどね。 ……元気だった? どうしたの、今日は」
切なそうな顔、するようになったね……。
「元気よ~♪ で、愛しのダンナ様待ってんの」
「うっわ、言うね……相変わらず」
右腕にかけていたブランドのコートを左腕にかけかえて、眼鏡のフレームをくっと上げてため息交じりにちぃちゃんは言った。
少しの沈黙。
でもそれは、嫌じゃなかった。
「……そっか、幸せなんだ。あ、でもいま不倫ブームだよね。気が向いたら」
「俺の奥さんたぶらかさないでくださいっ。 何ですか弁護士が不倫をそそのかすって」
「あ~おい~♡」
ちぃちゃんの真後ろに立って、いつもの声のトーンより低めにそう言ったのはあたしの愛しいダンナ様。
「あらら来ちゃった。もーちょっとだったのにな」
方眉を下げて情けなくクスクスと笑ったちぃちゃんは後ろに立つ葵に向き直り、情けない顔のままで「久しぶり」。なんて言った。
「……お久しぶりです。お元気でしたか」