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ハーフコートをぱんっとはたいた小枝子さんは、さっき拍子で落としてしまったバッグを拾ってボクに尋ねた。
「まぁ、いいわ。それで? まさかこれから誰かと待ち合わせでもしてるの?」
「え、いやぁ、はは。そんな人いないです。ご存じでしょうがっっ」
“まさか”を強調されてボクは少々むきになって言った。そうしたら一瞬だけ小枝子さんは顔の緊張を解いて笑った。
……失礼な。
「え、じゃあどこ行くの。こんなに早く」
「っそうですよ! 事務所! 遅刻しちゃいますよ小枝子さんもっ」
そう、こんなところでダベっている時間はないのだ。それなのに小枝子さんは少しも動じずにしれっ。と、
「休みよ今日は。葵さんも言ってたでしょ」
そう言った。
……え……?
「あの、じゃあセンパイ……どこ行ったんですか?」
眉間にしわを寄せて、ボクは首を傾げる。それと同時に小枝子さんはボクの両肩をがしっ! とつかんで「えぇ?!」 と奇声を上げる。
「うそ?! もういないの?! あー……今年は一緒に行きましょうねってあれだけ言ったのにー」
なんで引き留めておいてくれなかったのよぉー。
そう嘆く小枝子さんに「起きたらいなかったんです」。 なんて言えるはずもなく、ボクはスミマセンとひと言謝った。