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そしてその透けた髪をかしかしっとかいて、ブラインドから眺めていた景色を後にし、葵は暗い部屋の中へと視線を戻す。
汚い……。
葵はさっきとは別の諦め気分の溜め息をつくことになる。
この事務所、電気はもちろんのことガスや電話、挙げ句の果ては水道まで止められてしまっている始末なのだ。
この前の夏。男女のカップルが肝試しをしに来たのだろう。この事務所の扉を開けた瞬間に、うたた寝をし過ぎてしまって飛び起きた葵を幽霊と勘違いしたのだろうか、暫時声を出すのを忘れ、一呼吸置いてから悲鳴を上げ逃げて行く。という事があった。
それほど、この部屋は異様なのだ。
もう今日は何の依頼もないだろう。
そう確信した葵は2人掛けのソファに無造作に置かれていた茶系のコートを羽織、事務所を出て、ビルの階段をゆっくりとだるそうに下りていった。
季節はもう10月下旬。秋だというのに暖かかった。暖かいのはいいのだが、じっとりとして重く吹く風に、人々はあまり好感を持たなかった。葵もまた、そのうちの1人で……。
「あのう……」
葵はビルから出た瞬間にかけられた声に、思わず体を痙攣させてしまう。
「日下、日下葵さん……ですよね?」
10代後半位だろいか。青年とも少年とも言い難い男子が自分より10センチほど背の高い葵を見上げ、確認の意味だろうか迷いの意味だろうか、どちらかは分からないが復唱して尋ねた。
そこで葵は一瞬真実を言うべきか否か迷ったが、苦笑いしながら答えた。
「ええ。 日下、ですが……?」
「やっぱり! 僕ですよセンパイっ! 七澤 睦月です! 高校の時に一緒に生徒会で仕事したじゃないですかぁ」