10

p66

「せっかく誘ってくれたのにこんな所まで連れてきちゃってごめんね」

「いや、少しは気が紛れるんじゃないかと思っていたから」

 薫は相模湖をバックに力なさげに笑う。
 昨日婚約者を失った相手を誘うなど不謹慎極まりないのだが、葵はなんとしても薫の口から自白させなければならないのだ。

「うわぁ、見て日下くん。湖が真下にある」

 数10メートル離れている所には圭助と小枝子。そして渋谷も葵の頼みにより控えていた。

「深いみどりだね。 なんにも、見えない」

 くすっと笑った薫に葵はコートのポケットに手を突っ込んだまま静かに言った。

「妹さん、亡くなってたんだって? ……どうして、生きているなんて言ったの」

「……ヤだぁ、何言い出すのかと思ったら。 楽しい旅行中に辛気臭くなっちゃうからじゃない。そんな話したら」

 昨日、麻布のマンションで見た顔だった。
 無機質な、眼だけがどこか遠くを見つめている。
 薫本人は笑っているのだが、妙に大きく開かれた瞳の奥は笑ってはいなかった。

「……戸野辺知也、結城雅臣。2人を知っているでしょう」

「知らないわ。日下くんの知り合い?」

 一筋縄ではいきそうにもなかった。
 湖のほとり。冷たい風がざあっと2人の間をすり抜け、紅葉の綺麗な山々へと流れていく。

「睦月が殺人事件で捕まった時の被害者だよ。 ……そして、久世さんの婚約者である上杉さんの知り合い」

「彼の交友関係広かったから、知らない人もあたし、結構いるのよ」