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男は老医師を礼儀正しく一礼して見送った。
この男、藤崎 圭助は、今までかけていた眼鏡を外して白衣の左胸ポケットへとしまった。
と、その時だった。
「睦月!」
バンッという大きな音と共にドアを開き、ベッドの上の掛布団の膨らみをつかんだ人物が居た。
「――――っセ……パ」
うそだ。
睦月は頭で否定しながらも驚いてその声のする方に目を向ける。
そこには、長いともいえない長さの髪を振り乱し、“心配”という言葉を満面に浮かべている葵の姿があった。
「よ、かったぁ……。おかしくなって運ばれたって聞いたから、どんな風になったのかと思ったよぉ」
安堵の息をつき、前髪をかきあげた葵は涙目の睦月を見て言った。
「センパ……僕、わからないんですっ。 何が、どうして、こうなったのか……っわからないんですっ」
もう本当にどうしたらいいのか分からない。 といった具合いにぼろぼろと泣き出した睦月を少々遠巻きに見ていた圭助は、「あーあー」。と言って腕を組んだ。
「せっかく落ち着いてきた患者を興奮させないでくれないかなぁ……。 葵ぃ」
な、に……。
呼ばれた声に思いきり驚いて、葵本人はあんぐりと口を空けて振り返る。
「よぉ、久しぶりだな。 でもあれ以来だから……半年振りか?」
なんでお前がこんな所に居て、そんなこと言ってんだよっ。 と、葵。
「あ、今ものすっっごい『ヤダァ!!』 って思ったろ」