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22時過ぎという時間に電話が鳴り、事務所の中がどれだけ静まり返っていたかを思い出させる。
この時葵は渋谷からの電話だと思い込み、受話器に向かってそう言うが、相手はそうではなかった。
「……あ、久世さん。ごめん、人違い。 旅行、お疲れ様」
「えっ!」
ショルダーバッグを肩に掛けて事務所を後にしようとした小枝子は、葵の発した人物の名前にあからさまに嫌な顔をする。
「……そんな、明日でもいいのに。 うん。うん、わかった」
なんであの女こんな時間にここに電話掛けてくるのっ。と、小枝子の顔。
「じゃあ、今から行く。うん、じゃあ」
ぴっという可愛らしい音で切れた電話を小枝子は葵から取り上げて言った。
「……どこへ行くんですかこんな時間に」
妙に声が静かなのが気になったが、葵はしらっと。
「旅費の残金分の金額を払うって。 1時間もしないよ。すぐ戻る」
そう言ってコートを羽織り、葵は小枝子に二の句を告げた。
「心配しないで、小枝子ちゃんは家に帰ってください。 あ、途中まで送ろうか」
「……タクシーで帰るからいいですっ」
むすぅっと膨れた小枝子を葵は苦笑して見やり、圭助に留守を頼む。と言って事務所を後にした。