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「な、んで。久世さ……」

 葵は真っ白になった頭の中で必死に何を言いたいのか考えるが、それはうまい具合に口からは出てこなかった。

「葵、知り合いか?」

 渋谷は意外そうに2人を見て聞いた。

「高校時代の同級生です」

 間髪を入れずに薫は言った。
 伏せられている眼にはうっすらとだが、涙が浮かび上がっている。
 よどんだ空気が周囲を包み込む。それはこの場所で忌まわしき事件があったから。という事だけではなさそうだった。

「あの、渋谷さん。これがさっきざっと彼女から聞いたアリバイと状況です」

 気まずそうに口を開いたのは薫を連れてきた刑事だった。

「あ、ああ。ここはいいから警部のところへ行って指示を待て」

 はっ。と短く返事をしてその刑事は去っていった。

「ふ、ん……。害者が亡くなった時間、居なかった。か」

 渋谷は右手で口元を覆い、興味深そうにしてファイルに留められている紙を見る。

「……ん? 害者死亡時刻に男と会っていた。……結婚を控えているのに、ですか」

 葵はどくん、と鼓動を速めて渋谷へ視線を投げる。

「婚礼を目前にして、こんな時間帯に他の男性と会うものですか?」

 依然として無表情の薫を煽るように渋谷が問う。
 だが、凛とした顔は一瞬の動揺も見せないままだ。

「まぁ、念のためと言っては何ですが相手の名前と住所。お教え願えませんか」