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「俺だ。 っそれは俺なんだ」

 隣にいる圭助の顔が見る間に変わるのを葵は感じる。

 確かに、夕べ彼女と会っていたのは俺だ。

「あの時の……」

 圭助は独り言ちて目を見張った。

「22時を少し廻った時間だった。彼女から先日あった旅行の費用を精算したいと電話で連絡をもらって、俺は彼女……久世さんに会った。 別れたのは23時前。 圭助も電話が来て、俺が事務所へ帰った時間を覚えてくれている」

「……葵の言った通りだ」

 半ば心ここにあらず。といった具合の葵を横目で見ていた圭助は、訝しそうに薫を見やる。
 彼女に感じるのは、不信感以外の何物でもなかった。

 

 

「えっ! 久世さんフィアンセ居たんですか!」

 麻布のメインストリートにある喫茶店で待ち合わせをした小枝子は席に着くなりひっくり返るような声を発する。

「しぃっ! 声大きいなぁ……。誰かさんにそっくり」

「……姉妹ですからねっ」

 圭助の皮肉とも取れる注意に小枝子は咳払いをひとつしてそう言った。

「渋谷から聞いた話しでは害者と久世さんはいざこざもなく、幸せそうだったということだ」

 周辺の聞き込みで渋谷たちが聴いた害者、上杉 渉うえすぎ わたると久世薫の仲である。
 どうも警察はこの一件の容疑者を薫にしたいらしかった。

「……でも、ここで久世さんが捕まっても七澤くんは別件て事になるんだろうな」