p56
圭助がアメリカンのブラックをすすっと飲みながら言う。少々猫舌らしかった。
「久世さんには俺と居たっていうアリバイがあるだろう?」
やや不機嫌そうに葵が圭助に言う。
「それに、睦月を恨んでいるっていう根拠も無いじゃないか」
向かって座る圭助も隣に腰かけている小枝子も葵から耳を背けずにじっと聞く。
「勝手に容疑者扱いするのはどうかと思うぞ」
「じゃあ聞くが、どうして葵は勝手に彼女を容疑者じゃないと決め付けているんだ」
見開かれる葵の瞳。
口を開けるが、次の言葉が声になって出てこないもどかしさを葵は感じる。
「いいか、そもそも出来すぎてるんだぞ? 七澤くんから直線状に居た人物が全員消されている。これは偶然じゃないだろう」
最後を強めに言った圭助の目を見て、葵はさっき言えなかった別の言葉を告げる。
「……睦月の病院へ行ってくる」
がたんと立って喫茶店を出て行った葵の背中を見て圭助は、はあっと大きなため息を漏らす。
「あたしも、久世さんだと思います」
「問題は、自然死かどうか……か」
「よぉ、調子はどうだ」
コッコッという低いノックとともに葵は白いシーツに臥せっている睦月にそう聞いた。