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 睦月は、はぁっ。と大きく息を吐いて、湿った頬に纏わりつく横髪を耳に掛ける。

「……そんな人間を、金出せって言われて周りに知られたくないために金を差し出す人間をっ、センパイは」

「人間の弱い部分を許容できない人間にはならないでください」

 葵が空気に乗せるように言った言葉に、睦月は驚いた顔をして見返した。

「……お前が高校の時に俺に言ったんだぜ?」

 視線を睦月に合わせ、葵は懐かしそうに言った。
 ほんの小さな言葉が、見えない糸を紡ぎだす。 戻っていく、時間。

「ぼ、く……センパイがいて、ほんと、よかっ……。 このことだけは、戸野辺たちに感謝したいや」

「え? なんで戸野辺……?」

 意外な最後の言葉に戸惑いながら葵は聞き返す。

 感謝……?

「あ、実言うと戸野辺たちがセンパイの事務所があるって教えてくれたんです」

 妙な疑心感が葵のなかに沸き起こる。

「はじめは半信半疑だったんですけどね」

 何かが、おかしかった。

「セ、ンパ……?」

「なんで、そいつ俺の事務所があるって知っていたんだ」

 虚空を見つめながら葵は自問した。

「俺が事務所のこと教えたの、圭助と渋谷ぐらいじゃなかったか……?」