9
p62
皇居のすぐそば。霞が関にある警視庁に置かれる主に刑事事件を取り扱う捜査第一課に、葵は足を重そうに運んだ。
「げ。なにこんな所まで来てんだよ」
今しがた外から帰ってきた渋谷は、入り口近くの木陰に佇む葵を発見し、嘘だろ。と独り言ちる。
「久世薫の今までの経歴を教えてほしい」
朝方見た時よりも尚一層顔を曇らせている葵の眼を見るなり、渋谷は小さくため息を漏らし、
「応接室7番に行っててくれ、すぐに行く」
それだけを伝え、庁舎の中へ入っていった。
「他言無用だぞ」
渋谷の一言に葵は、ああ。とだけ答えて黒いファイルを手中に収める。
久世薫 神奈川県港北区出身
葵は一応はじめから目を通すが、ひとつ目についたことがあり眉間に皺を寄せる。
当人15歳、妹芳乃13歳の時に両親ともに交通事故で死亡。加害者側の過失が多大な為、慰謝料5千万円と両親の生命保険合わせて1億が支払われた。
その後、薫は父方の親戚、妹芳乃は母方の親戚(大沢)へ引き取られる。
両親、居なかったのか……。
静かな応接室にページをめくる音がひっそりと響く。
「七澤と久世になにか接点でもあったのか?」
「……」
何も言わないで葵はただただファイルを読むのに没頭する。
渋谷はその様子に今日何度目か分からないため息を吐いた。