p65

 ということは、もうすでにその時点からこの一連の復讐劇は始まっていたのか。
 けれど、それにしても1年半の時間は長い。その1年半で睦月と接触できる人物を見つけ、抱え込み、睦月を精神的に追いやるように指示をする。それだけの想い。ということなのか……。

 テーブルに肘をついて葵は両手で額にかかる前髪をかき上げる。
 圭助から見た葵の表情は悲痛なほどに歪んでいた。
 無理もない。この結末は、葵にとっては酷過ぎるものにしかならないのだから……。

「葵さん、あの……。風間さんて方からお電話なんですけど」

 ばっと首を上げていつの間にか繋がれていたコードレスフォンに葵は急いで耳をつける。
 風間鷹広かざま たかひろ。警視庁捜査第一課でもう20年あまり働いている警部。苗字は違うが、れっきとした葵の叔父である。

 妙なことに首を突っ込んでいるな、相変わらず。

 はじめは渋谷がバレたのかと冷や汗をかいたのだが、どうやら咎められる訳ではなさそうだった。

 刑事はな、いくら家族であっても事件の概要を話してはいけないんだよ。

「叔父、貴……?」

 何のために掛けてきたのか、この人は。

 落ち着いてきた頭の中でそんなことをふと思ってしまう。

 だがな、人助けをしている甥っ子を安く買うことは出来るかと、思うんだよ。 麻布のマンションのゴミ捨て場からふたつに切られた5メートルの延長コードが発見されたんだ。

 葵は眉間に皺をよせ、受話器の向こうの年いった声に聞き返す。

「ふたつに切られた延長コード?」

 圭助ははっと電話口にいる葵に視線を向ける。

 そういう事だ。あとは、どうにでもしなさい。

 その言葉を合図にして電話は相手のほうから切れた。 残されたのはいつまでも続く不通音だけだった。

「葵っ! 上杉は心臓麻痺に見せかけて感電死したんだっ!」