p.3

 見事にこの日は快晴で、気のせいだろうか着物を着替えたにも関わらず……血の臭いが俺自身を暗雲の如く包んでいるように思えた。
 ジャリ。
 俺はの下に感じ慣れた音にはたと辺りに視線を泳がせる。
 いつもの寺。いつもの桜。そして……。
 この境内へと続いている石段をサヤは袴の裾を両手でたくし上げ、一気に駆け上がって来た。

(————サヤ……)

 俺は舌の上で彼女の名を転がす。
 サヤは涙を流しながら悲痛な面持ちで俺の大袖を両手いっぱいに掴み、叫びにも似た声で懇願してきた。

「っお願い!! 見合い相手が亡くなったのっ。今朝方、河川敷で亡くなってたって……っ! あたし嫌よ! 売られるなんて!! っふぅ、あたしと、駆け落ちして……?」

 俺の腰にまわされた、白く細い腕……。視線を落とすと、白いリボン。サヤは震えていた。

(サヤは、俺じゃなくても良かったらしい。ただ、見合い相手が欲しくて……。売られるのが、嫌で……。)

 確かにそうだった。今のご時世次女という立場で嫁ぎ先がなければ、どこかの長者さんの所へ手伝いとして売られるか、はたはどこかの遊郭へ女郎としてとばされる……。

(けれど……)

「っお願い!!」

 サヤの腕に、より一層の力が加わった……。