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 最初に気になったのは、声……。
 夏休みも間近になっているせいか、教室に熱い風が、窓から流れ込んできた。 そんな午後の、現代国語の時間。

『そんなにもあなたはレモンを待つてゐた。』

 端正な横顔と、風になびく前髪。

『かなしく白くあかるい死のとこ床で
 わたしの手からとつた一つのレモンを
 あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ。』

 毎日ある情景。

『トパアズいろの香気が立つ。』

 窓際前から3番目に座る、私とは離れた席の高村くんが、特別に見えた一学期の終わり……。
 でも、そんな感情はたんなる気のせいで、

『その数的の天のものなるレモンの汁は
 ぱつとあなたの意識を正常にした。』

 そういや、“高村光太郎”と同じ“高村”なんだ……。
 すべて夏という季節が見せる幻想なのだと、思っていた。

 そうして時は、夏休みになっていた。

 夏休みが終わるとすぐに学園祭。 それに展示しなければならない美術部の課題のため、私は暑い中、学校の美術室に足を運び、イーゼルを立ててカンバスを立てかける。課題の題材としようと決めたオレンジを、机の上にみっつ置いた。
 
「ふぅ……」

 構図が、きまらないなぁ……。

 私の描く絵は、なんだかいつも整然としています。 絵だけではなく私自身、生真面目すぎて、おもしろ味に欠けるのです。

 『夏休みの旅行、岡倉さん誘う?』
 『あの人冗談通じないからなぁ……』
 『気ぃ使っちゃうんだよね』

 いつだったか、夏休み前。 特に仲の良い友達。というわけじゃなかった子達が、そんな風に教室の隅で言っていたのを聞いてしまった。

 わかっていながら、うまく笑うことができないなんて……。
 少しの間、机の上のオレンジをみつめる。 けど……。