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 頭の中で左回りに後退し始めた時計の針を、寸前で止めて聞き返す。
 シグナルが、鳴っている。 青から黄色、白から黒へ……。

「……少なくとも、幸福しあわせそうには見えないな。 お前から相談なんかされたこと無いからわからないけど、気づかないか? 何かがたりないって」

 ばんっ! とテーブルを拳でたたいて俺はそいつに一喝した。

「自分の思う幸せがそれなら! それでいいんだっ」

 友人も俺も、ため息をひとつづつついて、定食に付いている割り箸をぱきっと割って、無言のままご飯を口にほうり込むようにして食べた。
テレビから聞こえてくるバラエティー番組の声が、だんだん遠くなっていく。

 6年前

「結婚しよう。 ずっと、そばにいてほしい」

 大学で恋をして、卒業と同時に俺はあの人にそう言った。
 彼女はひとつ年上の女性ひとで、サークルが同じだったことで知り合った。 一緒にいて、赤の他人なのにこん なにも落ち着けるものなのかと、思っていた。
 情熱こいが安らぎに変わると愛になる。 どこかの哲学者はそう云っていた。

「愛してる。 もう何もいらない……。 どこにも行かないで、お願いだから」

 彼女は儚げに微笑んで、俺を受け入れてくれた。
 昼も夜も離れないで、ずっと2人でいた日もあった。

「子供は3人がいい。 女の子ふたりと、男の子ひとり。 将来は庭つきの家に住んで、大きな犬を一匹飼うんだ」

 素敵だろう?
 ええ、そうね……。

 出逢った頃から、俺の夢ばかりを追いかけていたのかもしれない。
 それでも彼女は俺についてきてくれて、幸福だとも言ってくれた……。

「ただいまぁ」

 それなのに、俺の誕生日。 2人で暮らしたアパートのドアを開けたとき、いつもそこで夕食を作っているはずの彼女の姿はなくなっていた。