p44
「ったく、何だってオレが警察の世話なんかにならなきゃなんねんだっ! ったくよぉ! 隼人も雄也も、殺したのアイツ……っ!?」
オールバック・ヘアの男は息を巻いてホテルの廊下を練り歩いていたのだが、急に眼の色を変えて押し黙る。
「よぉし……。そのまま黙って非常階段のトコまで行けよ。妙な真似しやがったらエンリョなく“こいつ”をアンタの背中にブチ込んでやるからな」
凌はその男の背中にグッとジャックナイフを突き付け、さっきまで柊に見せていた優しく切ない言葉と態度を何処かに置き忘れたかのように、冷酷かつ残酷な言葉を並べる。
「……っ! おっ前っ、目的は何だ。金か? 金だったら親父に頼んでやるよ……っ。女なら……っ!」
男は言い終わる前に背中に鈍い音と痛みを感じ、声にならない悲鳴を上げて恐怖にひきつる。
凌が刃先を数センチ押し込んだのだ。
「……“黙って非常階段まで行け”。 日本語分かンねぇワケじゃないだろう?」
ボタンダウンのシャツは、今のせいでじわじわと赤く染まっていった。
男はじんじんと重い痛みを感じながら、凌の言う通り非常階段へと足を運んだ。
「降りて、湖畔の雑木林まで行け」
凌の何の感情もこもらない言葉に男は、外見こそ静かだったが頭の中を駆け巡る混乱の波にのまれ、然るべく言われた通りにするのだった。