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サァッ……。 と、血の気が引くのを手に取るように感じたが、すぐに血液は沸騰し、鼓動が早くなるのを影良は感じた。
くやし、かった。 ばかにしてる……。ばかにしてる!!
「ふっざけんじゃ——っ?! こ、うき……さん」
「影良はオレが九十九へ連れて行く! 異存はないな!」
影良を両腕の中へぐっ。 と、引き寄せ、光記は周りの部下たち皆を沈まりかえさせた。
光記の顔は、さっきまでとは違う“人の上に立つ者”の顔をしている。
「未来、“当主”のオレに逆らうことは赦されない。いいな」
未来はギリッ! と、奥歯で歯軋りをして、憎悪のこもった眼で影良を見やる。
「……こっちよ。 叔父様からなんて言われるやら……。覚悟しなさいよ。九十九本家に来たが最後、生きては帰さない」
高級ワゴン車の前まで歩いていく途中で未来は押し殺した声で“影良に”後半部分を伝える。
が、いまだ影良の肩を左腕で抱いている光記は安心させるように腕に力を込めた。
「……こ・う・き……っ」
————?! なっ……!
ワゴン車に乗り込もうとした瞬間、先に車内に足を踏み入れた未来は色っぽく振り返り、わずかに口を開いたまま光記の口を覆った。
深い、深い……くちづけ。
「や……めっ、やめろ未来っ」
バッ! と、それを振り払った光記は、驚愕の色を隠せず声を荒だてて叱咤する。
「なにっ、考えてるんだっ!」
「……それはこっちのセリフだわ。 “なに”考えてるのよ。その女は“敵なんだからね”」
ドクン! “敵なんだからね” 敵……。 影良は……————。
『闘わなければ! 殺さなければならないのですよ、尊光様! 目の前にいるのは他でもないっ、月界龍司羅豪その者ですよ!!』
(……やめてくれ。 彼の女は、彼の女は吾が唯一……————)
光記は目を見開いたまま静止してしまい、その場に一瞬立ちすくんでしまったが、同じく微動だにしない影良にハッ。 と、して気付いて息を呑んだ。
まただ……。 白昼夢……!