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 所要駅からタクシーを使って十分。最近やっと開発されつつあるベッドタウンのすみに、センパイの奥さんである“小夜子さん”のお寺はあった。

「ボク、センパイが事務所を持ったことより結婚してたってことのほうが驚きましたもん」

「あはは! もっと驚くことに略奪愛なのよ実は! ふふ、姉さんねぇ、婚約者がいたの。けど葵さん……姉さんたちの結納の時に無理やり入ってきて『俺が幸せにする、こっちに来い』って、それだけ言ったら姉さんもーボロボロに泣いちゃって……。嬉しかったのねぇ。お相手の方も来るのわかってたみたいでそんなに騒ぎにならなかったんだけど、晴れ着着たまま葵さんの手を取って逃げちゃったの」

 ボクはタクシーを降りて並んで歩く小枝子さんのひと言ひと言がすごく新鮮で、けれどやっぱり何かがつっかえていた。
 さぁーっ。と、冬の冷たい風を一身に受けて、クリスマスとは無縁のお寺の門をくぐった。

「……結婚してたった一年。それまで同棲はしてたんだけど、本当に夫婦になって一年経った日、結婚記念日に……逝っちゃったの。葵さんの涙、あれで最初で最後。それからはもう本当に、仕事もしなくなっちゃったし寝食もまともに取らない、生きた死体。 あのね、七澤くん」

「あ、はいっ」

「君が来てくれて、葵さん救われたの。 ……本当に、ありがとう」

 ボクにはその言葉がよく理解できなくて、笑うことしかできなかった。
 こっち。
 そう言われて付いて行った先には、昨日まで少々長めだった髪の毛が短く切られた、高校の時によく見たセンパイの後ろ姿があった。

「……メリークリスマス。小夜子の好きだった、ワスレナグサ。持ってきた。昔、花言葉がどう……って言ってただろ? 調べて、何年かぶりでそういう恥ずかしさ思い出したよ。 “真の恋”って……。俺、本閉じちゃったよ」

 後ろ姿から見る懐かしさとは反対に、そこにはボクの知らない“男性”がいる。そう、思えた。
 それでも高校時代むかしを知っているボクにとって今のセンパイは、とてつもなく大きく見えて、カッコよかった。
 本当に……。

「でも、貴女がこの花を好きだって知って、よかったよ……。俺もこの花が好きになった。 ふっ、女々しいだろう? まだ、愛してる……小夜子」