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 いーや、帰ってねよ。
 あたしはお気にのトートを肩にかけなおして、かの有名な住宅地へと乗り入れる電車に乗った。
 あたしが天涯孤独になっちゃったのは、3年前の夏だった。
 ふたり結婚記念日が十周年だからって、夜ふたりきりで食事に行った帰り、居眠っていた対向車のダンプと正面衝突。
 即死、だった。
 3年前、12歳のときに遺されたものは、実業家だったパパの莫大な遺産。
 フツーそんなことがあったら、遺産目当てで親戚が……。 ってなるんだろうけど、パパもママも施設で育ったらしくて、遺産の3分の2はその施設へと送られた。

 関東、いや日本でも有数な高級住宅地。 そんなところに建つおっきな家。 ひとりで住むには広すぎるこの家も、その遺産のひとつだ。
 あたしはこれまたお気にの真っ赤なダッフルコートのポケット中から、じやらじゃらいっぱいキーホルダーのついた鍵を出して差し込んだ。
 キィ……。

「っえ、開いて、る?」

 まだ鍵をまわしてないのに開かれたドアに、瞬間ぎくっ。としてしまう。
 ……鍵、かけ忘れたかな、あたし。

「有栖?」

「っぎゃあ!」

 いきなりポンとたたかれた手に、あたしはかなりビビッて悲鳴なんぞを上げてしまう。