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「彼女は、中学の時軽音楽部のヴォーカルやってて……。彼女に憧れて、ボクも入部したんです」

あえて睦月はさっきの女性じょせいの名前を出さない。
なんか、すごく意地らしく思えて、俺は下唇を噛んだ。

「……晴行さんの家、親父さんすごい酒乱なんです。 その……晴行さん中学の時陸上のスプリンターだったんですけど、ある日親父さん酔っ払って、包丁……振り回したんです」

頭の中は、晴行さんの笑顔しかない。
ステレオから聴こえてくるロックバラードが、妙に部屋に響く。別に、静かってワケじゃ、ないのに。

「……センパイ、露骨に同情の顔しないで下さいよ。 で、晴行さんはお袋さんと妹をかばおうとして仲に入ったんです。 アキレス腱切断」

どくん!
聞いた瞬間、心臓が、止まった。

せ……つだん……?

「手術でつなぎ合わせられたんですけど……、やっぱり早歩きくらいが精一杯だったんです。 陸上も……諦めるしかなかったみたいで。 その頃から、彼女晴行さんの足になって、一緒にいるんですよ」