p57

 順平は手に握るナイフを怒りのあまり、より強く握ってしまい、重ねてアスファルトを血で染める。
 警察呼べ! 誰か止めろよ!
 まずい。
 順平は周りの騒ぎにやっと気づき、ためらいがちに左手をポケットへと忍び込ませる。

「……テメェみたいなヤツが居るからっ、“暁の話みたいなあーゆー”未来になるんだっ!」

「ンにごちゃごちゃ言ってやがんっ————」

 どさり。と順平の脇に倒れた男子はナイフを強く握ったまま気を失っていた。
 間一髪。順平は昼間暁からもらったビームガンを元の左ポケットへとまた戻し、ずくずくとうずいている右掌をそのままに商店街を素早く去っていった。

 土手……にはなかった。寺にも、公園にも……。神社、も……。
 順平は行ける範囲の全てを探し、足が震えながらも必死で走ってそれだけを追っていた。
 けれどそんな順平の努力を嘲笑うかのように、1本も彼岸花は見付からなかった。
『今夜あたりが峠だと思って下さい』
 そんな医者の言葉を思い出して順平は漠然とビルの電光掲示板に目をやる。
 12月8日 AM1:32。
 とうとう冬も本格的になってきた。“今夜”はもう過ぎてしまった。
 つうっと順平は頬をつたう水分に気づき、血まみれで今もまだじんじんと鈍い痛みを発している手の甲で拭う。
 なんでだよ。なんで俺が泣かなきゃなんねんだよ。