p31

「……なん、だって?」

 さらり。 と、ワンレンのセミストレートを綺麗にかき上げた亜伊に、光記は無意識のうちにつぶやいた。
 同じ、能力。 龍司には龍神の。 光司には光神の。 帯司には帯神の。 そして……。

「フフフッ。 裏風神風司りふうじんふうし、前世名伽室かむろ。……覚えていて? 尊光様と共に龍神を討伐した女を。 そこの女王に近づく貴方に、唯一真実を語っていた女を……」

 忌々しげに影良を見やった亜伊は、片手をソファの背もたれに乗せ、重心をそこで支えながら続ける。

「今回だってそうよ。 ……貴方たちの間に愛なんて存在しないわ」

「や……やめてっ」

 ガクガク。 と、震えた手で影良はそのまま耳をふさぐ。 けれど、亜伊の悲痛なまでの言葉の矢は、確実に影良を貫いていた。

「光記! 貴方のことを想って言ってるのよ。 この世を破滅にしか導かない龍神の、この小娘を! ……ニッ。 二度と自分から離したくなければ、また、殺すことね」

 ———— 自分の手で ————
 そこまで言った亜伊に光記はざっ。 と、頭の中で記憶をリバースさせる。
『来世で……来世で幸せになろう』
 そう言ってオレは、目の前で苦しみ悶えている最愛の女性ひとを剣で刺し殺した。 もう、二度と……!

「っもう二度とオレはこの女性ひとを殺さない!! ……っ頼む亜伊、やめてくれっ」

 フッ。 と、亜伊の表情が半ば曇ったかのようになった瞬間、影良は息を荒くして前髪をかき上げ、いつの間にか流れていた涙に気付く。

「“影良”は、裏切ったりしない。彼女は龍司の能力を復活させることを拒んでいる。 何より……オレのそばにいてくれている」

 光記……————!
 流れていた涙をよりいっそう多く流し、影良は嗚咽し始める。 それを見た光記は、ゆっくりと影良の肩を抱き、退室しようと一礼した。