伍〜時の記憶

p36

 ———— ユエ

「姫様! 横になられてなければなりません! もう、ヤ=シャ様の代理とはいえ、私には姫様のお身の回りのことをヤ=シャ様直々に仰せつかっているのですから、何かありましたらヤ=シャ様に面目が立ちませぬ」

 ラ=ゴウは一面特殊ガラスで覆われている壁と天井から見えるひとつの蒼い惑星、地球セアを見下ろしながら、後ろから叱られるようにかけられた声にやばっ。 と、顔をしかめた。

「あ、あら……ル=ビア。 今日はとても気分が良いの。はやり病なんて治ってしまったかのようよ。 ……ヤ=シャは、まだ戻らないの?」

 全身を真白い1枚の布で頭から覆い、顔だけを出すような衣装に身を包んだまだ若い、ル=ビアと呼ばれた女官は、今年で17歳になる若い時期女王を叱咤した。
 薄青い夜着から出ている象げ色の肌を、シルクの大きいショールで全身をくるむように羽織りながら少々咳き込むラ=ゴウに、ル=ビアは続ける。

「ヤ=シャ様はまだお戻りになられておりません。 ですから姫様は私の言う事をお聞きになってくださいませ……」

 ラ=ゴウは渋々とル=ビアのいう事を聞きながらも、どうにも後ろ髪を引かれるように背後で輝く蒼いセアを気にする。

「セアが、どうかなさいましたか?」

「え……?」

 天蓋つきのキングサイズのベッドに腰を下ろし、ラ=ゴウは今まで身にまとっていたショールをル=ビアに手渡しながら言われた言葉に聞き返してしまう。
 心なしかその表情はやはり青白い。

「最近の姫様はセアばかりを眺めておいでなので。 まぁ、この宮から出られないのですから無理もないのでしょうが……。 先日の、対セア戦の大敗が、お気になりますか」

「……」

 そうなのだ。 セアへ派遣されていた7万という兵力が、現女王ケイ=トのはやり病により病床に伏したことをきっかけとし、ほぼ壊滅状態に陥っているという報せが昨日届いたのだ。