プロローグ
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都心から車で1時間ほど離れた場所に、繁華街。とまではいかないが、中規模の商店街がこじんまりとした趣きで100メートルほど規則正しく並んでいる。
午後4時過ぎ。その商店街は近所の主婦達で賑わっていた。
店の主人と話す者もいれば、4人で自分の家庭のことや世間への不満を延々と話している主婦もいる。至って何の変わりもない日常的な風景である。
が、しかしそんな商店街には不似合いな、3階建ての、ツルに覆われた不気味なビルが時を忘れていたかのように立たずんでいた。
日下旅行代理店事務所。ビルの3階の窓から2階の窓にかけて、取り付けてあった半壊した看板には、消えかかってはいたがそう書かれていた。
こんなビル、誰も住んでなんかはいないだろう。行き交う人々皆そう信じて疑いはしなかった。けれども今、陽もそろそろ落ちるだろうという時分にも関わらず、1人の男が3階のワンフロア《日下旅行代理店事務所》と、扉に書かれた部屋に居た。
日下 葵、現在27歳。そう、彼こそここの代理店の社長ともいうべき存在なのである。
やっぱり今日も依頼件数ゼロか……。
葵は埃っぽい机の上に置かれている旅行リストなるものをパラパラとめくり、心の中でひとりごちる。
そしておもむろに席を離れると、ブラインドの隙から外を覗き、ほう。と、ひと息諦めたように溜め息をついた。
少々荒っぽく後方でまとめられている髪から短くてまとめられなかった横髪がさらり。としなだれおちる。
ブラインドから差し込んでいる陽は、部屋の中の埃といっしょに髪をブラウンに透けさせた。