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……俺、このままトンズラしよっかな。
葵はそんな事をかなり本気で考えつつ、ポケットに手を突っ込んで3階の窓から見える商店街を呆然と見下ろしてみたりしていた。
そんなことをしている間に清掃業者が来て、家財、事務用品一式が外に出されたと思ったら、いっきに清掃が始まって最後にはあの半壊していた看板までもが真新しいものへと姿を変えた。
ということがこの半日で終わり、太陽が少し西に傾きかけた頃には電気、ガス、水道が事務所によみがえるという信じがたいことまでもが実現されていた。
「……小枝子ちゃん。俺に福沢さん(一万円札)がいないと知ってのことかな」
こんなことまでしてくれちゃって……。と、嘆く葵の脇でやはり睦月も同じような顔をしておどおどする。
「クスクス。任せて下さい。私から社長へのささやかなプレゼントです。 ってことで、私も今日からここの秘書になります」
請求書を不敵な笑みのこぼれる口許にもっていった小枝子は、葵の空いた口が塞がらない状態を見てクスクスと笑う。
「そっ、そんなことしたら梅原さん怒るでしょう」
「あ~ら、その時はその時よ。どうにかなるわ」
「その時はその時ってっ」
葵が声を大にした時だった。
ふと、視線を綺麗になったドアへと向けた時、グレーのスーツを着た女性の姿を葵は目の端で見ることになり、えっとなって二度見してしまった視線をそれへと移動させた。
そこには、ショートカットの女性が一人。一歩引いた感じで立っていた。
「あ、の……。ここって、日下旅行代理店事務所……ですよね?」
客だ。
3人の頭の中にいっせいにその言葉が浮かび上がり、今までの態度を豹変させる。